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岐阜地方裁判所 昭和45年(ワ)328号 判決 1971年12月20日

原告 林千衛

被告 国

代理人 山田厳

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一、原告が岐阜弁護士会所属の弁護士であることは当事者間に争いがなく、(証拠省略)によれば、原告は訴外佐々間見市より同訴外人の訴外大神建設株式会社外四名に対する不動産強制競売申立事件の委任を受け、右申立事件について弁護士法第二三条の二第一項前段に基づき昭和四五年三月二五日岐阜弁護士会(当時会長土田光保)に対し、右五名の所有不動産の表示(所在・地番・土地については地目・地積・建物については家屋番号・構造・床面積)につき岐阜市役所に照会して報告を求めて欲しい旨申出たので同会長は即日同条第二項により岐阜市長に対しその照会を発したこと、また(証拠省略)によると岐阜市役所が右照会を受けた後、同市の税務部長であつた訴外田中治三郎は全国自治協議会で上京した折自治省に立ち寄り同省市町村税課自治事務官由比長松、同森村和男に対し右照会に対する回答の当否について自治省の見解を求めたところ、右事務官らは法制局の見解あるいは通達等に基づき照会に応ずると秘密漏えいのおそれがある旨の見解を示したこと等がそれぞれ認められる。そして、同年四月七日岐阜市長は、右照会に対し税務行政執行上支障があるので回答できない旨右弁護士宛に報告したことは当事者間に争いがない。

二、ところで、弁護士法第二三条の二によれば、弁護士は、受任している事件について所属弁護士会に対し公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができ、弁護士会は右の申出に基づき公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。右規定の趣旨は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする(弁護士法第一条)弁護士の職務の公的性格の特殊性に鑑み、弁護士の右使命の遂行を容易ならしめることを目的としたものであつて、照会を受けた公務所又は公私の団体は自己の職務の執行に支障なき限り弁護士会に対して協力し、原則としてその照会の趣旨に応じた報告をなす義務を負うと解すべきである。しかしながら、右報告義務は右の目的のための協力義務に基づくものであつて弁護士または依頼者個人の利益を擁護するためのものではなく、報告義務者が報告を拒否した結果弁護士の職務活動が阻害されることがあるにしても、そのために生じた損害を賠償する義務まで負うものとはとうてい解せられない。

三、而して第三者の行為により右報告義務が履行されなかつたとしても、本件における弁護士法第二三条の二により認められる利益は、前述のとおり私人の利益を擁護する目的で認められたものではないから、報告義務者において損害賠償義務を負わないのと同様右第三者につき損害賠償義務が生ずるいわれはないものと言うべく、これを本件についてみるに、前記認定の事務官らの行為が原告の主張するような指示に当り、右指示の内容に誤りがあるとしても、これがため被告に損害賠償義務があるものとは言えない。

四、よつて、原告の請求はその余につき判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石川正夫 宮地英雄 内山弘道)

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